11月20日に開催された第314回中央社会保険医療協議会総会において、第20回中医協医療経済実態調査(医療機関等調査)結果報告に対する一号委員(支払い側)・二号委員(診療側)の見解が示されましたが、二号委員(診療側:医師・歯科医師・薬剤師を代表する委員)の見解は下記の通りです。
<第20回中医協医療経済実態調査(医療機関等調査)結果報告に対する見解>
平成27年11月4日に報告された第20回医療経済実態調査の結果から医療機関の経営状態を見ると、一般病院の損益率が▲1.7%から▲3.1%に低下し、一般診療所の損益率も、16.1%から15.5%に低下し、精神科病院の損益率は0.4%から0.7%とほとんど改善しなかった。
民間の一般病院では、医師給与が▲2.1%と低下するなど、給与水準は抑制されているが、給与費率が54.5%から54.9%に上昇している。コ・メディカル等の医療関係職種の増員に見合う収入が手当てされていないのではないかと推察される。医療従事者の確保、処遇改善は経済成長にも資するものであり、十分な手当てが必要である。一般病院では、流動比率(215.8%から198.3%)、自己資本比率(55.9%から46.5%)などの安全性指標も低下している。
民間病院では一般病棟入院基本料7対1の赤字が▲1.3%(前々期▲0.4%)と最も大きくなるという事態になった。必要な人材を確保し、設備投資を行って医療提供体制を維持できる状態にない。
一般病院の病床規模別では、すべての規模で連続赤字となった。特に、大病院で赤字が拡大(300~499床▲2.0%から▲4.2%、500床以上▲1.7%から▲3.3%)しており、前回診療報酬改定で行われた消費税率引き上げに伴う補填が不十分であった医療機関が存在するものと考えられる。小規模な病院も損益率が連続して低い。
精神科病院や療養病床を有する病院では、医薬品等の外部支出を抑制して利益を捻出しているが、職員の処遇改善の余裕はない。
療養病床に関しては、診療報酬と100床当たり入院収益の関係が逆転している(100床当たり入院診療収益は療養病棟入院基本料1で782百万円、入院基本料2で824百万円)。これは他の病床の収益もあるほか、病床稼働率の違いなどが影響しているものと見られる。診療報酬は個別の点数だけでなく、算定要件や地域性なども広く考慮する必要がある。
一般診療所は全体で減収減益(医業収益▲0.2%、介護収益▲0.3%、差額率▲0.6%)である。医療法人では院長給与を▲0.5%引き下げたが、医師(勤務医)給与の上昇(+2.6%)もあり、給与費率が47.9%から48.2%に上昇した。給与費単価だけの問題ではなく、一般診療所でも事務職員等が増加している中、従事者の増員分を賄える収益がないものと推察される。
また、一般診療所では、在宅療養支援診療所の損益率が低く(医療法人・入院診療収益なしで一般診療所8.8%に対し在支診7.4%)、また内科診療所で損益率が低下(入院診療収益なし(個人▲0.7%、医療法人▲0.6%))している。前回改定で在宅医療の適正化を行ったことが、現場で真面目に在宅医療に取り組んでいる診療所にも影響を与えたと言える。
歯科の医療機関の大部分を占める個人歯科診療所における直近2事業年結果については、医業収入の伸びは0.3%で、損益差額はほぼ横ばいに留まっている。医業・介護費用について、内容を見てみると「医薬品費」、「歯科材料費」が増加する一方で、「減価償却費」の減少が見られる。消費税増税と金属代等の価格上昇を設備投資の抑制で補っている状況である。また「給与費」の下げ止まりは人件費の削減が限界に達していると思われ、経営状況はこれまで同様、非常に厳しい状況であることが窺える。
そして、従来から言われている経営の落ち込みについて、全く回復されていないことが分かる。個人歯科診療所における経営状況については、既に経営努力や経費削減努力が明らかに限界に達しており、このことは設備投資面での資金にも影響を与えることが懸念され、安全・安心を前提とした歯科医療提供体制の根幹に関わる喫緊の課題として速やかな対応が求められる。
保険薬局の収支状況については、収益が横ばい(個人立)もしくは低下(法人立)であるのに対し、投与日数の長期化傾向等の影響により、費用の9割を占める医薬品費とその管理に関する給与費が上昇した結果、開設主体の違いにかかわらず損益率は低下した(個人立▲0.4%、法人立▲2.1%)。
また、保険薬局の開設主体の9割以上を占める法人薬局のうち、同一法人の店舗数が「6~19店舗」の施設を除き、いずれの区分においても損益率は低下しており、特に保険薬局のうち、地域密着型の代表とも言える「1店舗」及び「2~5店舗」の施設の損益は、「2~5店舗」で半減、「1店舗」では赤字となり、前回改定において消費税率引き上げに伴う補填が行われたにもかかわらず、調査結果の数値以上に厳しい状況であることがうかがえる。
以上見てきたように、今回の医療経済実態調査結果からは、平成26年度診療報酬改定が実質▲1.26%のマイナス改定であったことや、消費税率引き上げに伴う補填は行われたが、医療機関等は総じて経営悪化となったことが示された。
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12月4日京都で保健医療2035シンポジウムを開催 厚生労働省
厚生労働省は、11月17日、「保健医療2035シンポジウム」の開催を発表しました。
本年2月から開催していました「保健医療2035」策定懇談会が6月9日に提言書をまとめました。提言書には、保険者、医療関係者、国民各層への問題提起や国民的な議論が必要となる改革事項などもあることから、8月24日に開催した第1回シンポジウムに続き、12月4日に第2回シンポジウムの開催を企画しました。
日時:12月4日14:00~16:00
場所:京都大学百周年記念ホール(京都市左京区吉田本町 京都大学百周年時計台記念館)
プログラム
(1) 塩崎厚生労働大臣による挨拶
(2) 基調講演:株式会社ミナケア代表取締役、ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー山本雄士氏(「保健医療2035」策定懇談会構成員)
(3) パネルディスカッション
ファシリテーター:特定非営利活動法人日本医療政策機構理事小野崎耕平氏
パネリスト:東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授渋谷健司氏
浜松医科大学地域家庭医療学講座特任教授井上真智子氏
法政大学経済学部教授小黒一正氏
ハーバードビジネススクール日本リサーチセンター
アシスタントディレクター山崎繭加氏
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000104351.html
日本医師会ORCA管理機構(株)を設立 地域ヘルスケアファンドと共同出資
日本医師会は、11月5日、「日本医師会ORCA管理機構(株)の設立」を発表しました。
日本医師会は、(株)地域経済活性化支援機構(REVIC)のファンド運営子会社であるREVICキャピタル(株)が(株)AGSコンサルティングと共同で運営する「地域ヘルスケア産業支援ファンド(地域ヘルスケアファンド)」と共同で出資し、11月4日付で、日本医師会を発揮人とする「日本医師会ORCA管理機構(株)」を設立することを決定しました。
REVICは、地域経済の活性化を図り、併せて、地域の信用秩序の基盤強化にも資するようにするため、地域経済の活性化に資する事業活動の支援を行うことを目的に地域経済活性化事業活動支援業務を行っています。
その一環として、地域ヘルスケアファンドでは地域包括ケアシステムの実現などを目指し、地域金融機関等と協力しながら、地域ヘルスケア産業の活性化、雇用創出に資する事業への成長資金の供給などを行うことにより、地域経済の活性化を支援しています。
日本医師会は、「国民のための医療政策展開」をサポートするためのシンクタンクとして設立された日本医師会総合政策研究機構(日医総研)を通じて、日本の医療現場の事務作業の効率化とコスト削減を目指すと同時に、国民への高度で良質な医療の提供を目標とする医療現場IT化プロジェクト(オルカプロジェクト)を推進し、日医標準レセプトソフトを中心とした各種医療情報システムを提供してきました。
今般設立する日本医師会ORCA管理機構(株)では、日医総研にて推進してきたオルカプロジェクトを引き継ぎ、今まで提供してきた安心・安全に共有・活用されるシステムという基本方針は維持しつつ、時代の潮流に合わせた医療ICT高度化の推進を目指します。
オルカプロジェクトでは、誰もが安全で安心して使える医療介護情報の基盤づくりを行うことが喫緊だと考えています。高齢化に伴うこれからの医療介護需要をIT化で支援し、地域での連携に寄与できる共通のプラットホームが必要です。
日本医師会ORCA管理機構(株)は、高いレベルでの個人情報の取扱いが必要な医療介護において、国民が安心できる質の高いIT時代の皆保険の実現を支援していきます。
http://www.med.or.jp/