日本医師会は、6月17日の定例記者会見で、「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会第1次報告(内閣官房による地域医療構想の必要病床数の推計値の公表)」について見解を発表しました。
「2025年の医療機能別必要病床数の推計結果」等について、と題して次の通り示しています。
2015年6月15日、医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会から第1次報告が発表された。この中では2025年の医療機能別必要病床数の推計結果も示されている。
地域医療構想は、構想区域内で、必要な病床を手当てする仕組みである。手当の仕方は地域の事情によってさまざまであり、構想区域の必要病床数を全国集計していくらになったということに意味はない。そうしたことを踏まえず、単純集計を公表したことは納得できない。
また、報告書の公表以前に、情報が流出し、一部で「病床10年後1割削減」、「全国の病院、必要ベッド20万床減」と報道され、地域の医療現場を混乱させ、地域住民を不安に陥れた。きわめて遺憾である。
医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会第1次報告」について
本調査会は、医療・介護情報の活用方策等の調査及び検討を行うことを目的として設置されたが、今回の報告では医療・介護提供体制の改革そのものにまで踏み込んでおり、行き過ぎであると考える。
具体的に問題、懸念がある部分は以下のとおりである。
(1) 地域医療構想は、地域の実情を踏まえて策定されるものである。今回の報告でも「地域医療ニーズに対応した医療機関別の病床が確保されるよう、医療提供体制の改革を進めていくことが望ましい」としているが、一方で「地域の実情を勘案するに当たっても、人口構造の違いなど、客観的に説明可能なものの範囲にとどめるべきである」として、地域の実情を踏まえることに制限をかけていることは問題である。また、「解消しきれない地域差については、当該都道府県に、その要因等の公表も含め、説明責任を求め、更なる是正の余地がないか、チェック・検討できるような枠組みを構築することが重要である」とある。地域差の要因を分析することは重要であるが、地域差をすべて否定することになってはならない。
(2) 都道府県知事の権限の強化が懸念される。「都道府県においては、地域医療介護総合確保基金に加え、医療介護総合確保推進法において整備した都道府県知事が役割を発揮できる仕組みなどを最大限活用」するとある。折しも、2015年6月10日の経済財政諮問会議では、有識者議員が県の権限強化で病床再編を後押しすると言っている。医療法では地域医療構想においては、都道府県知事が対応できるケースは4つのみである。行き過ぎた強制力の発揮は、地域医療にひずみを生じさせる。
(3) 平均在院日数のさらなる短縮化を求めていることも問題である。「退院計画を早めに策定するなど、患者の状態像に応じ、円滑な転棟・転院等ができるような取組を進めていくが重要」、「平均在院日数の短縮も図るなど、より質が高く効率的な医療提供体制の構築に向けた検討を進めていくこと」という記述である。日本医師会は平均在院日数の短縮化は限界にきていると主張してきた。これ以上の短縮化は、患者の追い出しにつながるうえ、勤務医の疲弊を増すことになる。DPCでは平均在院日数の短縮化が進んでいるが、その結果、治癒率が低下し、再入院率が上昇するという事態になっている。なお、地域医療構想の医療ニーズの算定にあたっては、平均在院日数ではなく医療資源投入量が用いられている。ここで平均在院日数が用いられなかったことには評価をしている。
(4) 診療報酬について、具体的な記述があるが、診療報酬については中医協でしっかり議論していく。地域医療構想と診療報酬をリンクさせるべきではないが、地域医療ニーズの充足を阻害している不合理な診療報酬要件(たとえば回復期リハビリテーション病棟入院料1における専従医師1名以上)は是正すべきであると考える。
(5) 地域医療構想は拙速に策定すべきではない。今回の報告書は、「早急に地域医療構想を策定する」ことを求めているが、地域医療構想策定ガイドラインにも「拙速に陥ることなく確実に、将来のあるべき医療提供体制の実現に向け、各医療機関の自主的な取組等を促す」とある。地域の実情を見誤ることなく、関係者の理解と納得を得て慎重に進めていかなければならない。
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