母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査で共同声明 日本医師会や医学会など

日本医師会、日本医学会、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会、日本人類遺伝学会は、11月2日に共同記者会見を開催し、「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」についての共同声明を発表しました。

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(NIPT)について、日本産婦人科学会では、1)妊婦が十分な認識を持たずに検査が行われる可能性があること、2)検査結果の意義について妊婦が誤解する可能性のあること、3)胎児の疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる可能性があること、等から、十分な遺伝カウンセリングを実施することができると認定・登録された施設でのみ臨床研究として実施できることを骨子とした「母体血を用いた新しい出生前遺伝学検査に関する指針」を策定し、2013年3月9日に公表しました。

NIPTは産婦人科領域にとどまらないことから、同日(3月9日)、日本医師会、日本医学会、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会および日本人類遺伝学会は、「母体血を用いた新しい出生前遺伝学検査」について、関係者は日本産婦人科学会による同指針を遵守すべきであるという共同声明を発表し、NIPTを実施する施設の認定・登録を日本医学会臨床部会運営委員会「遺伝子・健康・社会」検討委員会の下に設置する「母体血を用いた出生前遺伝学検査」施設認定・登録部会で行うこととしました。

これを受け、厚生労働省も2013年3月12日の閣議後記者会見で田村憲久厚生労働大臣(当時)から趣旨説明と周知依頼が発せられ、また、2013年3月13日には同省の雇用均等・児童家庭局母子保健課から「『母体血を用いた新しい出生前遺伝学検査』に関する指針等について(周知依頼)」が全国の都道府県・政令指定都市・中核都市の母子保健主管部(局)長宛、および全国関係機関に宛て発出されています。平成28年10月12日現在、母体血を用いた出生前遺伝学検査に関する臨床研究施設として認定された全国75施設においてNIPTが実施されています。

しかしながら、この度、日本産婦人科学会の指針、関連5団体の共同声明、および厚生労働省の通知を無視する形でNIPTを実施する医療機関・検査機関があるとの報道がなされました。日本医師会、日本医学会、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会および日本人類遺伝学会は一致して、この事案は大変遺憾であり、かつ由々しき事態と捉えており、緊急に下記の表明を行いました。



1.「母体血を用いた出生前遺伝学検査」施設認定・登録部会での認定を受けずに当該検査を実施している医療機関や医療従事者、また受諾して検査を請け負っている検査機関や仲介業者等は、いずれも直ちに検査の受諾及び実施を中止すべきである。

2.出生前診断の実施に際しては、十分な遺伝カウンセリングが行われることが必要であり、私たちは、わが国における遺伝カウンセリング体制のより一層の普及と充実、医療従事者への教育、および国民に対する啓発活動に尽力する所存である。

3.今回の様な極めて遺憾な事態の出来を受け、これの沈静化を図り、また今後、類似の事案の再発を防ぐためにも、私たちは出生前に行われる遺伝学的検査等の医療技術の利用のあり方については、日本産婦人科学会のみでの対応では限界がある点に鑑み、日本医学会に所属するすべての学会は、それぞれの学会に所属する会員への監督を適正に行い、また日本医師会に所属するすべての会員は指針等を遵守するよう求める。