「財政健全化に向けた基本的考え方」で見解 日本医師会

日本医師会は、6月4日の定例記者会見で、財政制度等審議会財政制度分科会「財政健全化に向けた基本的な考え方」について、見解を発表しました。

財政制度等審議会財政制度分科会が5月30日にまとめた「財政健全化に向けた基本的な考え方」では、○実効性ある「支出目標」の導入、○診療報酬における薬価の市場実勢の下落による「当然減」の毎年の反映、○特別養護老人ホーム等の内部留保も踏まえた介護報酬の適正化、を指摘し、「断固実現を求める」と記載され、受診時定額負担の導入の検討、市販類似薬品(湿布、漢方薬など)の更なる保険適用除外、保険適用から外す「逆評価療養」、国民健康保険における保険者の都道府県移行、出来高払い制(過剰なサービス供給がもたらされやすい)についても述べられています。

日本医師会では、これらについて「日本医師会の考え方とあるべき姿の方向性」として次の通り示しています。

<医療費の「支出目標」>

医療費の支出目標を設定すると、適切な地域医療を提供する阻害要因となる恐れがある。

現在、2014年度までに病床機能報告制度の運用を開始し、2014年度中に国において地域医療ビジョンのガイドラインを策定し、2015年度からガイドラインを踏まえて都道府県で地域医療ビジョンを策定する方向で進んでいるところである。このスケジュールを拙速に変更すべきでなく、地域の実情を的確に把握し、都道府県行政と地域医師会が一体となって地域医療ビジョンの策定に向けて尽力することが求められる。

<薬価の毎年改定>

診療報酬改定と薬価改定はセットで行うことを前提に薬価算定ルールが設定されているため、薬価の毎年改定は、診療報酬とのバランスを欠くことになる。

また、健康保険法では、診察、薬剤の支給、処置などの療養の給付を受けることができる。すなわち健康保険法において薬剤は診察等と不可分一体であり、その財源を切り分けることは不適当である。

さらに、薬価改定を毎年行うことになれば、医療機関および調剤薬局のレセコン等や、保険者のマスタ更新に毎年膨大な費用が発生する他、医療従事者の研修などによって大きな負担を強いることになる。

なお、日本製薬団体連合会および日本製薬工業協会からも反対意見が出ており、その意見を尊重したい。

<受診時定額負担>

2011年に行われた「社会保障・税一体改革」の議論の際にも受診時定額負担の導入が議論され、患者や医療関係者の強い反対によって導入が見送りとなったことから、受診時定額負担は既に解決済みであると認識している。

そのため、今般の財政審の報告書で再び検討課題としてあがったことは非常に遺憾である。

「受診時定額負担」は、毎回一定額を支払うことになり、受診回数の多い高齢者には大きな負担になる。また、当初は定額100円であっても、いったん導入されれば、その水準が引け上げられていくことは、過去の患者一部負担割合の引き上げの例からも明らかである。また、日本医師会の調査によると、窓口負担が増えた場合に受診回数を減らしたいと思っている患者が約半数いることも明らかになっている。その結果、高齢者や低所得者の方が受診を差し控えざるを得なくなることが懸念される。

<市販類似薬品>

日本医師会は、国民皆保険を堅持するという3条件の第1番目に、「公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること」を掲げている。市販類似薬品の更なる保険適用除外は、公的な医療給付範囲の縮小を招く突破口となるおそれがある。

安易に市販類似薬品を保険適用除外とするのではなく、現場の実態を考慮すべきであると考える。

<保険適用から外す「逆評価療養」>

保険適用の可否については中医協で議論がなされており、保険適用から外されているものもある。「逆評価療養」がどのようなものを想定しているかが不明であるが、本来中医協で議論すべき内容であり、財政審が踏み込むべきではないと考える。

また、費用対効果についても中医協で検討がなされており、そこでの議論を尊重したい。

<国民健康保険における保険者の都道府県移行>

社会保障制度改革国民会議の報告書においても、国民健康保険に係る財政運営の責任を担う主体(保険者)を都道府県とすることが提案されている。日本医師会は公的医療保険制度を将来的に全国一本化すること、その過程で、市町村国保を都道府県単位で統合することを提案している。市町村国保は大変な思いで運営しており、広域化すれば財源は安定するので望ましい。

なお、市民の健康増進については引き続き市町村が担うべきであると考えており、広域化によって、市町村国保が行っている保健事業に対する努力をそぐようなことがないよう留意することが大切である。

<出来高払い制>

日本の対GDP総医療費は9.5%(2010年)で、先進7か国中5位であり、国際的に決して高い水準ではない。

日本の医療は、平等で、患者にとっても自由であるだけでなく、質が高く、しかもそれを既に世界一の高齢化率であるにもかかわらず、先進諸国の中でも低コストで提供している。したがって、出来高払いは、過剰なサービス供給がもたらされやすいものではない。

また、出来高払いであるからこそ、保険審査として第3者である保険者のチェック機能が働いている。

 

http://www.med.or.jp/